作品解説『こうかふこうか』佐藤両々 ぞんぶんにネタバレするよ

異常な不幸体質女子・福沢幸花(ふくざわこうか)と異常な破壊体質男子・岩井恭介(いわいきょうすけ)を中心としたオフィスコメディ。恋愛要素にあふれているのに、オフィスラブコメというと結構語弊がある印象です。

 

 

というのも、基本的には「怪我、病気、事故、失せ物から、誤解、間の悪さ、運のなさまで含めて毎日に不幸しかないのではという状態ながら、至って呑気で前向きな不憫系けなげOL、福沢幸花が毎度毎度ひどい目にあうマンガ」であって、笑いの中心がラブではないんですね。

よくもまあここまで集中してこの子のまわりに悪いことが起きるな!! っていうののほうが、この作中の「ネタ」なわけです。

幸いにして幸花が底抜けに前向きで自分が不幸とは思っていないのと、少し話が進むと周囲のキャラクターが育って彼女のことを守ってくれるようになるので、そこまでツライ印象のマンガではありません。そこまで耐えられるかどうかがキモでもありますが。

彼女の勤務するオフィスには、異常な破壊体質男子・岩井の他にも異常な幸運体質女子・祝部千寿や、動的なツッコミをする頼れる姉御体質・亀山深紅、静的なツッコミをする頼れる学級委員長体質・鶴見真白がおり、基本的には終始ドタバタしています。

このほか、長身のイケメン営業女子・慶喜寧々や同僚のモテ系男性・財前などが主流メンバーで、あとは後半に新人君が1~2人入るくらいかな。幸花と同じように、「よくもまあここまで集中してこの子のまわりに○○が起きるな!!」というネタの中で、徐々に人間関係に変化が起きていきます。

ちなみに、幸花の不幸、岩井の破壊の他には、初期は祝部のラッキー、中期は寧々の性別あたりが鉄板のネタになっている感じですね。

まとめて読むと、各巻の終盤で人間関係に変化が起こり、次巻へのヒキになっていました。

 

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さて、連載開始当初から冒頭に述べた二人のオフィスラブコメというわけではなく、岩井は当初幸運体質女子・祝部千寿に惚れており、彼女の結婚が確定してへこむ様子なども描かれ、2巻の途中まではひたすら「幸花が単独で不憫街道をぶっちぎる」もしくは「岩井の破壊に幸花が巻き込まれる」というパターンを突っ走ります。

しかし2巻の最後で、まさかの岩井が幸花に公開告白。しかし姉御体質・亀山は以前から岩井に片思いしていたため、それによって仲のよかった幸花・亀山・鶴見の関係にもヒビが入ることに……。

と、ここから、各人のキャラクターづけとして与えられており不変にすら感じられたそれらが、同時に「欠点」でもある……というふうにも描かれ始めます。

はっきり、きっぱりした性格の亀山はある意味おせっかいでもあり、本人が自分でやらなければならないことも代わりにやってしまうこともある。言いたいことを言える性分だが、そのぶん言葉で失敗することもある。あふれんばかりの行動力は、時として暴走もする。

幸花の波風を立てない性格はただの八方美人で、自分が傷つくことを極端に恐れているだけで、それでいて察してくれる周囲に甘えている。不満を言わない、波風を立てないことが「いい子」の条件ではないが、彼女はそれ以上のものになれない。

最近の4コマはだいたいストーリー仕立てになっていますし、キャラクターの成長は決して珍しいことではないとは思いますが、キャラクターの個性でまわしているコメディ作品でそこを否定してきたというのはひとつの取り組みとして興味深い部分はありました。

 

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とはいえ、このあたりがうまくいっていたかというと、ただかき混ぜただけというか、もやっとさせただけに終わってしまったのが残念なところ。

彼女たちのアイデンティティークライシスと、岩井が幸花に告白をして以降の財前→幸花←岩井←亀山の恋愛関係が同時期に訪れてしまったので、ちょっとグチャグチャしてしまい、せっかくのキャラクター成長部分への描き込みが足りない印象を受けました。

結局、3巻の末で幸花が煮え切らないうちに岩井が諦めムードになってしまい、今度は亀山からの公開告白で亀山と岩井が付き合うことに。そのころやっと幸花は自分の気持ちに気付いて……いやしかし財前も動き始め……そして社内ではひたすら「わが社のプリンス」扱いしかされなかった寧々の社内恋愛も持ち上がって……!! という怒涛の展開が4巻で訪れます。

4巻ではサクサクと物語が進んでいきますが、3巻から登場した何もできない新人くんが鶴見に惚れたりなんだりの「今それを膨らます必要があったかな」というような要素もチラホラと。しかしモノの流れとはいえ今まで受け入れるしかできなかった幸花が後輩を叱りつけることができたり、それにより後輩も少しは態度を改めたりと、最終巻でも彼らの成長が諸々と見てとれました。

 

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オーラスでは無事幸花と岩井が結ばれ、あとがきでは数年後の彼らの姿がカットで描かれており、哺乳瓶を割る相変わらずの岩井と赤ん坊を抱く幸花、髪を伸ばして自分の理想であったかわいい奥様を満喫している寧々、大きくなった双子の娘と一緒に幸せそうな祝部、財前からプロポーズを受ける亀山、そしてどちらと結ばれたのかわからない、最終回にいきなりぶちこまれた要素を若干濁されたままのウエディングドレス姿の鶴見を見ることができます。

わたしは○年後オチが結構好きなのと、これでもう彼らの姿を見ることはできないというのに作者の近況報告ばかりされるあとがきが嫌いなのとの相乗効果で、このカットはとても嬉しかったのですが、それと同時に「ああこの作者さんのパターンが出ちゃったなー」とも思いました。

なんというか手近でやたらくっつきあうのと、その中の1組は意外性どころかなんでこんな組み合わせにしちゃったかというカップルをつくるのは『天使のお仕事』のときもそうだったので……。パターンというほどの事例はないかもしれませんが、最終回1本前ですら接点のなかった人たちや、作中で恋愛要素のなかった人たちが急にくっつくパターンをやられると、そこまで積み上げてきた人間関係がもったいなくないかなあと気になってしまって。

これ、現在連載中の『あつあつふーふー』や『わさんぼん』でもやられるんじゃないかなーと思うと、今から戦々恐々としております。

 

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作品全体としては、やはり3巻の迷走がちょっと尾を引いてしまったかなという印象はどうしてもありますが、精神的な調子のよいときに読む分にはとても面白いです。

……というか、若くて元気な人が読む分には面白いのか?

わたしこの作品はリアルタイムで掲載誌でも読んでおり、コミックスも発売後すぐに入手していて、自分の中では結構お気に入りのマンガという位置づけだったんですね。なので、そのころから3巻の迷走についていろいろ思ってはいても、好きで面白いマンガ……だったのですが。

今あらためて紹介のために読み直してみると、オチをつけるためや事件を起こすためとはいえ、岩井に限らず登場人物が全体的に考えたらずで学習能力がない風に見えてきてしまうところもあって……。また幸花の不幸や岩井の破壊のケアについても、それでいいのかという点も多々あって……。

ウーン……。

と、このマンガについての印象が結構変わってしまったのでした。同僚の結婚式のウエディングケーキを倒しておいて、替えが出てきて「さすが準備万端」じゃないだろうよ……とか……結構金銭的被害の出る状況もネタとして処理されているので、自分の精神状態によっては素直に「マンガだから!」で楽しみきれないところもあるんだなーと。自分の頭が固くなってきているのかもしれません。やばい。

 

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それでも、連載開始当時は雨や病気で修学旅行はおろか遠足にすら行けなかった幸花が、そして会社のみんなと初旅行に行っても脱衣所で転んで骨折し、温泉には入れなかった幸花が、みんなの見守る中で露天風呂を楽しめたのもよかったし、海に行ったのも楽しそうだったし。

さらには、下駄箱を間違えてラブレターを入れてしまったせいで1年間好きでもない人と付き合ってしまった幸花が、好意を寄せてくれているけれども本命ではない人のお誘いをきちんと断ったり、自分から好きな人に好きですと言えたことが、諸々嬉しいと思う程度には、この作品好きなんですよね……。

また違うときに読むと、肩の力を抜いて楽しめるのかもしれません。

少なくともこれからお楽しみになる方は、リラックスした状況でお楽しみくださいね。

 

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あと、なんだかんだいろいろ言っていますが、恋愛関係を作品のベースとして進行してきた本作が、「紆余曲折の末、幸花が岩井に告白して、二人が無事にお付き合いを始める」のが最終回という組み立ての部分は最高だと思います。

4コマ関係は、結構「そのネタでひっぱってきたのにこれしか触れないで終わるんかい」とか「あれだけひっかきまわしといてこんなにストンと決着つけるんかい」みたいな終わり方をする作品が少なくないんですよ。

それが、特に打ち切りとかではなく、コミックスのページ数にあわせて調整しながら連載されているような人気作品でもザラにあることなんですね。

なので、コミックスの巻数と最終回までの回数を計算して、二人の距離感が変わってしまったことも含めて告白までの段階を踏み、きちんとエンディングを迎えてくれたとことは、いち読者として素直に嬉しく思っています。

 

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また、本エントリ執筆完了後、あれだけ好きだったマンガに対してこの感想なのわがことながら解せないなーと思って4巻を読んでみたのですが、4巻を読んでいるだけなら前と同じように好きでした。

だからといって、4巻だけなら面白いですよとか、4巻だけ読めばいいですよって作品ではないんですよね……。1~3巻の積み重ねがあるからこそ、4巻でのみんなの行動が愛おしいわけで。ううむ。

あとは、今までひっかかっていた部分を散々吐き出したからというのもあるかもしれませんね。自分はある程度読みつくした感があるので、今後は4巻だけ楽しもうと思います。

 

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おまけ情報①
全巻、カバー下表1・表4に描きおろし4コマがあります。

おまけ情報②
4巻に『天使のお仕事』『しょっぴんブギ』のコラボクリスマスマンガが1p収録されており、この3作品のツッコミ女子が同級生であることがわかったりもします。カバー下マンガは彼女たちの学生時代です。

また、同じく4巻で出かける京都で訪問した和菓子屋さんは明らかに『わさんぼん』のお店ですが、登場人物は斜め後ろからのアングルに統一されているため瞳の見えないあくまでモブ的な描写にとどまっています。また、こちらでは「亰都」ではなく普通に京都です。

 

 

 

 

 

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